講師伝
この道を目指したきっかけ、前編
H.Nはなぜ、この道を進んだのか。
きっかけは、H.Nが某データベース会社で、マネージャーの仕事をしていた時期まで溯る。
ある日、H.Nは営業から一つの案件を受けた。
某大手企業の子会社の社員二十人くらいに、とある資格を取得させるための講習を、という内容だった。
そういった案件自体はよくあるのだが、講習のアンケートの回答を見て、H.Nは驚愕した。
お役に立ちましたか? という質問項目があったのだが、それに対して、わからない、という回答があったのだ。
前述した「社員二十人くらい」は、全員が四十歳以上の、中高年の男性である。
四十歳を超えた人の中に、役に立ったかすらわからないと答える人がいるなんて……。
少し呆れながら続けてアンケートの回答を眺めていて、H.Nはさらに目を疑いたくなるような回答を目にする。
別の用紙には、なぜ私がここにいるのかわからない――そんな回答が書かれていたのだ。
実は当時のその某大手企業は、子会社出向という名目で社員を大量に子会社へと飛ばしていたのだ。
これは事実上のリストラで、今回の講習に来ていたのも、そのリストラにあった方々だった。
当人達にやる気が無いということを駄目だと思いながらも、理解は出来たH.Nであった。
後編に続く。